2007年11月12日

5 「孫子を勉強するにはどうすればいいですか」に答えて

(1)孫子は知識の勉強ではありません

 一般的に言えば、生きている人間は皆、立派な兵法家であるとの見方ができます。極論すれば、例えば、弱肉強食が常態であるアフリカのサバンナに棲息する野生動物は、皆、類い稀な兵法家ということです。理屈なしに生き抜くために日夜、全身全霊をもって戦っているという意味であります。況んや、万物の霊長たる人間に於てをや、であります。

(2)その意味で、常在戦場の人として、明日をも知れぬ人生を生きた孫子(孫武)の立場も、現代を生きる我々個々人の立場も全く同次元のものと解されます。ゆえに我々個々人もまた(戦時・平時という程度の差はあれ本質的には)常在戦場の人なのです。


 言い換えれば、人は兵法などを学ばずとも、有限の生ある日々を自分の五感で感じ、知恵や工夫を働かせ、生き抜くために物事を考えようとしているということです。

 ただ、人間が動物と違うのは、そのような戦いの日々に際し、古来の先人の経験が知恵として結実している兵書を、(戦いに関する)物の見方・考え方の指針として利用することができるという点であります。而して、その戦いの主体者はあくまでも個別特殊的存在たる個々人であるということです。ゆえに兵法においては、まず「汝自身を知れ」が鉄則なのです。

 兵法を学ぶという原点は、まさにここにあるわけであり、その意味で、いわゆる受験勉強に代表される演算能力中心の知識勉強とは似て非なるものであり、言わば、幹と枝葉、全体と部分、脳力と能力のごとき相違があるということです。

 あるTVドラマで年配のベテランの捜査員が上司ではあるが若年にして新米のエリート捜査員に「六法全書では人は捕まえれない」と諭(さと)すシーンがありました。

 つまり、知識は必要であるが、それはあくまでも人間の脳力の一部に過ぎない。変化を常態とする世の事象に適切に対処するためには「脳力」という意味での総合的人間力を磨く必要がある、の意と解されます。


(3)かつて日本は、士農工商という身分制度の下にあり、そのリーダーたる武士道教育の棍本は総合的人間力の育成、もしくは社会の指導者たる者、人間としていかに生きるべきかを追究するにありました。社会的指導者層の育成という意味では、それはそれで世界に冠たる有意義な教育システムであったことは確かであります。

 とは言え、明治以降の日本の社会システムを踏まえれば、とりわけ学生時代は、好むとと好まざるとに関わらず、(リーダー育成たるかつての武士道教育とはおよそ対極に位置する)演算能力中心の知識勉強、いわゆる偏差値優先の教育とは無縁ではいられません。

 然(しか)らば、かつて社会的リーダーの育成システムという意味において、世界に冠たる武士道的教育は現代社会において不要かと言えば、さにあらず、(その意味での社会的要請を善意に解釈すれば)それは個々人が社会人になってから、自覚して主体的にやるべきものである、との暗黙の了解があると解されます。


(4)然りながら、それが現実に行われているか否か極めて心許ないものがあると言わざるを得ません。一般的に言えば、厳しい受験戦争に勝ち抜いて、例えば(偏差値教育の精華たる)一流校を卒業すれば、自他ともにこれで人間として一人前と錯覚し、どちらかといえば人間形成と無縁の生活を送る人が多いようです。況んや、二流校、三流校の卒業生においてをや、と言わざるを得ません。

 仮に、資格試験などの勉強をするにしてもそれはあくまでも従来の偏差値教育の延長に過ぎず、いわゆる人格完成、総合的人間力の形成を目指すものとは無縁のものです。


(5)言い換えれば、そのような感覚、もしくは知識の勉強の延長という観点から孫子を学ぶことは適切ではないと言うことであります。冒頭で記したのはまさにそのような意味なのです。

 孫子を学ぶということは、人生とは何か、生死とは何か、戦いとは何か、組織とは何か、社会とは何か、国家とは何か、それらを踏まえて人生いかに生きるべきかを追究し実践することです。そもそもは、そのような土台の上に、現実の日々の生活があり、ビジネスがあり、地位があり、資格試験があり、家庭があり、将来があるということです。


(6)人間は思考力があるがゆえに、万物の霊長たり得ましたが、その知識ゆえに、あるいは極めて便利な現代的システムゆえに、返ってそれが妨げとなって、自分の頭でものを考え、自分の五感で感じ、知恵や工夫を働かせて物事を考えようとする力が失われてしまっていることも事実であります。


(7)孫子は、あくまでもリーダーの書であり、現状変革の思想であり、実践の書であります。ゆえに、これを学ぶには単なる知識を学ぶという感覚では難解な部分が多々あります。その意味で、孫子を学ぶには(発想の転換を図るなどの意味で)一定の学習システムが必要になるということです。これらの詳細について興味のある方は、弊塾サイトの下記の目次項目を御覧ください。


「孫子に学ぶ脳力開発と情勢判断の方法」
http://sonshi.jp/


(T)孫子の学び方について:「孫子時評」のP2・「第七回 孫子を人生万般に活用するための方法」

(U)上記の参考として:「孫子談義」11月7日付けの「孫子の意味は必ずしも正しく理解されていない」

(V)孫子をオンライン講座で本格的に学びたい:「通信講座の御案内」
posted by 孫子塾塾長 at 22:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 孫子
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